July 18, 2019

日本公開『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』


Long Way North』を公開してよ」から3年、フランス・デンマーク合作の劇場用長編Flashアニメーション『Long Way North』が『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』の邦題でついに公開決定ですよ。世界で27ヵ国目だそうです。配給のリスキットさん、ありがとう!
2016年7月にアンスティチュ・フランセでのTAAF受賞記念特別上映会、2019年3月6日の新文芸坐の特別上映を逃したみなさん(オレも!)には朗報ですね。日本版の予告編も公開されています。

国内の評価

東京アニメアワード2016グランプリ、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞受賞。

世界での評価

アヌシー国際アニメーション映画祭2015で観客賞受賞。2015〜2017年にかけてフランス、オランダ、ルーマニア、スペイン、イギリス、ポーランド、アメリカ、カナダ、香港、ギリシャ、イタリア、ノルウェー、ロシアなどで公開されてきました。RottenTomatosのトマトメーター(批評家による評価)では98%の高評価、これは『トイ・ストーリー4』と同じなんです。どんなに高く評価されてるかわかりますよね。さらに観客の満足度も76%と70%以上なのでいい結果といえます。

試写会

てことで7月12日に行われた試写会に参加して、さっそく観てきちゃいました。Flashは死んだと思ってるやつ全員に見せたい映画ですよ!そしてFlash使いやFlash大好き芸人、特にFlashアニメーターにぜひ観てほしいです。
お話は19世紀のロシア。北極探検に行って行方不明になった祖父の捜索が打ち切られたため、自ら捜索に行く貴族のお嬢さんサーシャの冒険譚です。舞踏会の作画は大変だったでしょうね。港では船に乗り損なったので食堂で働くことになります。忙しい食堂での生活が前半の見せ場です。1ヶ月後に出航。終盤はアクションサバイバルで動く喜びを満喫できます!
サーシャの過酷な旅は『雪の女王』のゲルダを彷彿。主線なしのシンプルキャラが3コマ打ちでいい芝居してました。瞳がククッと動くの好き。実写的なレイアウトもカッコイイ。特に光と影の描き方。パンフォーカス、FXもFlash作画(フィルタやブレンドなし)、てことでほぼ全編FLAで仕上がってます。Flash CS3でもFlash 8でも描けちゃうレベル。AEで盛ったりしない!もちろん、絵コンテやアニマティックもFlashですよ。PhotoshopのBGはAEでコンポされました。アニメに合わせてソリッド仕上げだけど奥行きある〜。
今回、字幕が映像の下に明朝で読み辛かったけど、9月の公開時は映像に乗せ、吹替版も制作するとのこと。公開されたら吹替えで観ます。そうそう、エンドクレジット後にも1カットあるのでお見逃しなく!

制作

パイロット版では2コマ撮りだったのを本編は3コマに変更。パイロット版からキャラを変更したのは、作業の効率化を図るため単純化する必要があったから。サーシャンの唇と髪のタッチを廃止。キャラデザは反転できるように左右対称。主人公は前髪を一筋垂らしてシンメトリーを崩してる。アニメーション照明は映画全体で使用したかったそうだが、一部のショットに制限。3本マストの船は船員数が増えて作画が大変になるので2本マストにしたそうです。
派手なアクションよりも感情の表現に重点を置いたので日本のアニメが参考になったって。そういえばホールドも多い。
レミ・シャイエ監督「アクションシーンよりも感情的なシーンに多くの作業時間を割り当てました。アニメーターに時間を費やして欲しかったのは感情的な芝居。すべてをリアルに再現することに興味がありません。サーシャの髪の毛を細かく描き込むことに予算を使いたくありません。彼女のシンプルな髪が風で揺らぐ方が重要です」

主線をなくした理由

この映画には主線とゆーか、輪郭線がない。アニメーターたちは線画でアニメーションを仕上げているので面で描いているわけではない。最終的に線を削除しています。
レミ・シャイエ監督「ある時、Photoshopファイルのアウトラインを削除したら、アウトラインがないことの素晴らしさに気づいた。主線はほとんどが黒なので、輪郭があればすべての色を黒色に合わせる必要があり、色調が制限される。輪郭が存在しないことにより、フィルム全体で様々な色彩を表現できた」
まあ、Flashなら主線削除は簡単なので、Flashに向いてるルックだよね。『海のうた』の影響もありつつ、でもTVPaintじゃなくてFlashだったらこうできると。目ん玉なんて二重丸、2色しか使ってないわけよ、シンプルなのよ、シンボルなのよ、グラフィックのシンボルなのよw

Flashを使った理由

レミ・シャイエ監督「絵コンテから最終アニメーションまで、Adobe Flashで制作しました。それが制作中に使用したすべてです。ストーリーボードアーティストが描いた絵をアニメーターが開いて引き継ぐことで元のニュアンスが保たれます。Flashファイルはとてもシンプルです。映画の視覚スタイルはシンプルに設計されていて、予算内で完成させるためにアニメーションや背景のディティールを省略しています」
リアン・チョー・ハン作監「Flashは経済面で素晴らしいソフトウェアでした。多くの効率の良いショットを作成できます。レンダリングでは、1つの絵をペイントするのに時間がかかるため、パイプラインでFlashが本当に重要でした」
レミ・シャイエ監督「Flashアニメーションに適合させた日本の技術に影響を受けています。アニメーターが線画でアニメーションを描き、アニメーションデザイナーが彩色します。絵が再利用できる場合はアニメーターがシンボルに変換した。これはFlashソフトウェアの特異性の1つ。たとえば顔をシンボルにすればそれを共有できるので、多くの時間とリソースを節約できた」
レイアウトはFlashでグレースケールで作画。これを元にPhotoshopで背景画を制作し、After Effectsでコンポジット。つまり背景以外はすべてFlash作画ってこと。ストーリーボードから最終的なアニメーションまで。とは言っても、船や電車、馬車、そり、ボートなどは3Dだった。
レミ・シャイエ監督の次回作『カラミティ』も『ロング・ウェイ・ノース』と同じスタイル、スタッフ、パイプラインを使用してるそうです。てことは引き続きFlashですね。

スタッフインタビュー

Storyboard

メイキング

制作の中心となったフランスのパリにあるサクレブル・プロダクション。40人ほどが1フロアで作業しました。絵コンテ、レイアウト、アニメーションの各責任者と打ち合わせると、すべてのスタッフに議論が伝わる。アニメーターが作画する時点では、何をすべきかわかってるんだって。無駄話もしにくいや。

他にパリのメイビー・ムービーズ・スタジオ、デンマークのノエルラム・スタジオも加わりました。通常はアジア、カナダ、フィリピンに外注するけど、国外はデンマークだけ。週1でSkypeして、FLAファイルをやりとりしたって。
15ヶ月の制作期間のうち、アニメーションに8ヶ月費やしたそうです。製作費は640万ユーロ。ヨーロッパ平均をわずかに上回るが、予算的にお金と労力の配分が重要。アニメーションの照明を一部のショットに限定しなければならなかった。背景画に2日間かければ良い背景になるが、2時間なら結果が期待どおりでなくても受け入れる必要がある。アニメーターがキャラの肩を不必要に動かす度に予算を超えてしまうので、アクションシーンより感情的なシーンに多くの時間を与えた。そのため、アクションは1日1.8秒でできる範囲で我慢。アニメーターに時間を費やして欲しかったのは感情的な芝居だから。

タイムラインは上派も下派も。使用してるFlashのバージョンはCS5.5またはCS6ですね!さすがにCS3はいないか・・・
キャラは反転が効くようにすべてシンメトリーにデザインされてます。その上で髪のパーツを加えて対称を壊すようにしてますね。主線なしはFlash的にはパーツ分けしやすいよね。
  1. ロケハン
  2. ストーリーボード
  3. プレスコ
  4. アニメーション
  5. Marion Rousselさんの原画集

日本語吹替版

8月30日に日本語吹替版完成披露試写に行ってきましたよ。今夜はメディアやアニメ関係者でほぼ満席!上映前に、配給会社リスキットの金子氏、監督のビデオメッセージ、主人公サーシャ役の上原さんの挨拶があった。終映後は大拍手。Flashは死なない。こうして映画として後世に残って行くのです。そしてこれはアニメーションの要素が絵のディティール増しや視覚効果、CGIの方にいってしまった日本のアニメ業界とは違い、純粋に描いた絵が動くことでお話を伝える本来のアニメーションですよ。なぜ日本でこーゆー作品が作れない?Flashで作ってみれって!って思ったさ。

日本版Blu-Ray

ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん2020年12月2日、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー提供作品として、日本版Blu-Ray/DVD発売。日本語吹替えは収録されますが、映像特典の収録が気になりますね。輸入盤だとパイロット(2分)、メイキング(39分)、レミ・シャイエのインタビュー(30分)、静止画ギャラリー(7分)、アニマティック(4分)が収録されてるんですけど、残念ながら日本版は予告編のみでした。

関連サイト

Posted by A.e.Suck at July 18, 2019 01:30 AM